カルネ・ド・フランス

フランス人とキス

今回はフランス人の少し特殊な習慣についてご紹介したいと思います。それは、フランス人は挨拶する時に、よくキスをすることです。日本人にとって珍しいと思いますが、会ったときと別れるとき、ほっぺたとほっぺたをくっつけてチュッとする挨拶、これは「faire la bise」(ビースする)と言います。

第二次大戦を祝う有名なキスの写真ですが、こういったキスの仕方はロマンティックなフランス人にとって一番理想だと思います。

フランス人は、家族とは必ずビースをします。子供、夫と妻は、起きる時にも、寝るときにも最低一回はキスします。親しい友人の場合も、会うと別れるたびに軽く抱いてビースする習慣があります。フランスは、男性同士もそうです。男性同士がビースするのは、他の国ではあまりないと思います。例えば、アメリカ人の友達が、夫が友人にビースしたのを目撃したときに、「ショッキング!」と言ったことがあります。でも、フランス人は家族と友人以外、もっと一般的に仕事の仲間、隣人、知り合いとまでもキスする習慣があります。特に女性と女性、男性と女性の間にはそうです(男性と男性は、大変親しい場合のみにビースします)。もちろん、このビースはカップルの「キス」(唇と唇)と全く異なり、恋愛ではなく、愛情と友好関係を表すために使われています。

地方によって、ビースの数とやりかたが違ってくるのは面白いと思います。私の住んでいるブルゴーニュ地方を含む東フランスでは、ビースを2つし、左の頬でスタートし、次に右の頬にします。パリも2つですが、右から左になる場合が多いです。南フランスでは、ビースは3つにし、ルアール地方とブルターニュ地方では4つのビースまでもする習慣があります。私にとっては、4回もキスするのは多すぎて、目まいがするほど、頭を右左に振り動かさなければならないような気がします。でも、「4つではないと気が済まない」というブルターニュの友人が言います。

19世紀の絵です。ひざまずいた形で女性の手をキスする、「baisemain」の習慣は今までもフランス人のイマジネーションに残っています。

フランス人がなぜそんなにやたらにビースするのか、について考えてみました。まず、フランスはラテン系の「血の温かい」民族で、ある程度の「体と体の付き合い」を求めていると思います。家族内でも、日本人以上、家族のメンバーを抱いたり、キスしたりすることをよくします。イタリア、スペイン、南米の住民も同じで、一般的に人と接触するときには体のコンタクトも求めています。例えばブラジル人は、お話している間に相手を手でなでたり、抱いたりすることはよくあります。これはフランス人にとっても、「やり過ぎ」と言う人もいるようです。コミュニケーションにおいては、言葉のみではなく、「体の使い方」でも文化の差がよくわかると思います。

フランス人には、とてもロマンチックな側面もあると思います。どんな人間関係でも、ちょっとした誘惑、ちょっとした遊び、ちょっとした愛を求めているのではないか、と思います。特に男女関係はそうです。例えば昔は、フランスの男性は女性の手に軽く唇をつける習慣があり、これは「baisemain」、文字通り「手のキス」と呼んでいました。女性がどれほど可愛い、尊い存在であることを表すための、フランスの紳士がよく使っていたマナーでした。現在はあまり使われていませんが、たまに今でも、「貴方は本当に素晴らしい方だ」をちょっと極端で劇的な形で表現したい場合は、男性が膝ずまいて女性の手を軽くキスする習慣が続いています。その場合、フランスの女性がいくら「フェミニスト」であっても、やはり密かに喜ぶのですね......。

ブッシュ大統領がアメリカの記者のリーベルマンさんにキスした画像です。アメリカでは全くない習慣で「有名になった」事件です。フランスでは、友人であれば男性同士もよくキスします。写真:http://www.bushspeaks.com

牛もキスしますから、文化と宗教と関係を持っていない、自然そのものの表現かもしれませんね......。写真:http://www.life.com

その他、ビースの習慣に宗教の影響もあると思います。カソリック教の場合は特に、キリストを崇拝するために、十字架にキスしたり、祭壇に唇をつける習慣は昔から続いています。そう思えば、神様に対する愛と敬意の表現は、自然に人間にも使われて、キスを通じて相手の存在を祝い、相手の有り難さを表することになると思います。仏教の国では、「神様をキスする」習慣が全くありませんから、挨拶にもつながらないだろう、と推定できます。

でも、ビースの習慣のない人と接触すると、色々な問題が発生することも確かです。例えば、ずっと昔からフランスに住んでいるドイツ人の友達は、ドイツでは、家族以外の人をキスする習慣がないために、「いくら時間がたってもフランス人のビースは嫌いだ」と言っています。フランス人が日本人と交流する時にも、よく問題があります。フランス人は、少しでも親しい関係になりますと、必ず「ビース」をしたがるのです。日本人は逆に、特に仕事関係の場合、距離を守って、相手に敬意を表現することを優先し、その印としておじぎをする習慣があります。これはフランス人にとってわかりにくいと思います。フランス人を日本へ連れていくと、必ず、相手にビースをしたくなり(特に女性である場合......。)、その人が恥ずかしくなったり、当惑することがよくあります。場合によって、少し嬉しそうに見える時もありますが......。とにかく、ビースに慣れていない日本人にとって、「キスすること」はそんなに容易にできないことだと思います。

私自身も、ビースの習慣のあまりない国(スイス、アメリカと日本)で育ったために、フランスのビースに慣れるまでに、随分時間がかかりました。今は、友人と家族であれば、自然で快くビースしますが、あまり親しくない人であれば、違和感を感じることがあります。個人的に好きな人であれば、あまり気にしませんが......。そうでなければ、はやりしんどいですね。また、些細なことかもしれませんが肌がツルツした女性であれば、ビースするのは気持ちいいのですが、例えばヒゲを生やした男性の場合、チクチクして肌が荒れそうな感じすることもあります。

自分の子供ならいくらキスしても足りないような気がします。当時4歳であった息子、テオちゃんと私。

正直に言えば、私はビースをする人と、しない人を、もっと自由に選びたいことがあります。一番ビースをしたい人は、やり自分の息子テオですね。いくらキスしても、足りない感じで......。母親ですから、当たり前かもしれませんが......。

ビースは色々な意味で、フランスの文化を表現し、人間関係を位置つけるために大事な役割を果たしていると思います。人との接触をよりスムーズと快くするために、とても素晴らしい習慣だと思います。でも、「肌と肌の触れ合い」ですから、不思議ですが、好き嫌いもはっきりしてしまうのですね。

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