コンテスト

第5回インテリアデザイン・コンテストエッセイ部門準グランプリ2

理想のわが家

S・Y様(神奈川県・51歳・自営業・男性)

 寒いのは服を着ればなんとかなる。でも、夏の猛暑、裸で道を歩くわけにはいかない。汗でベチャベチャになった服が背中にペットリと張り付くのはいやなものだ。寒い日に、布団でぬくぬくするのは気持ちがいい。夏はそんな楽しみもない。そればかりか、日々寝不足気味になる。「あっついなあ」と嘆かれるより、「寒いね」と囁かれる方が好きだ。子どもの頃、東北で育ったせいか、とにかく暑さは苦手である。
 家を持つなら、北国がいい。海際なら、豪雪も比較的しのぎやすいと聞くし、豊かな魚場は釣り好きの私にとってたまらない。花粉症がないというのも夢のようだ。
 兼好法師も言っている。
「家の作りようは、夏をむねとすべし。冬は、いかようにも住まる」
 場所は北海道にしよう。
 さて、うわ物だ。私の理想はうわ物とは呼べない。なぜなら、家は地下に建てたい、いや、埋めたいからである。
 土地は板塀で囲んである。友人を招く。さあ、どうぞと塀の中---。
 ところが中は畑しかない。キャベツ、大根、ジャガイモ、たまねぎ......その真ん中に木が一本。驚く友人を横目に見ながら、ポケットから小型のリモコンを取り出す。おもむろにボタンを押すと---
 タッタカター タカタッタ タッタカタッタッター
 サンダーバードのテーマソングは鳴り響かないが、かわりに高性能の機械音が微かに聞こえて、畑の一角にポッカリと入り口が開き、地下への階段が現れる。唖然とする友人に先立って階段を降りきると、シェルターのような無機質のドア。再びリモコンのボタンを押す。
 さあ、さあ、いらっしゃい。
 ここで友人はさらに驚くことになる---SF映画にでも出てきそうな近未来的な部屋---光り輝く超合金の壁には、コンピューターはもちろん、キッチンやベッドなどが剃刀の刃も入らないくらいキッチリと、一分の隙もなく収納されている。それらがリモコンひとつで音もなくせり出してきたり、伸び上がったりする---そんな予想は一瞬で砕け散るのだ。
 日に焼けた、擦り切れたような畳に、ぽつんとまるい卓袱台が置かれ、その上には白熱灯がぶら下がっている。壁は年季の入った漆喰、天井は雨漏りのシミや、大工の足跡でもついていそうな板張りだ。キッチンというよりは台所といった面持ちの調理場は、なんと土間である。テレビはどこから調達したのか四つ足の白黒、ご丁寧に電話はダイヤル式の黒電話、隅の火鉢で南部鉄瓶がチンチンと湯気を上げている。
 ひょっとすると、さっきの入り口はタイムマシンのドアで、昭和の頃にタイムスリップしたのではないか、と思わせられるような光景だ。
 そしてよく見ると不思議なことが---
 地下なのに窓がある。しかもそこからは陽の光のようなものが射している。実はこれ、地面に突き出た取り入れ口から太陽光を取り込んでいるのだ。原っぱの真ん中にあった一本の木、その中に大量のグラスファイバーが仕込まれていて日光を余すことなく導いている。もちろん光量は電子制御で自由自在。その一部は熱に変えられ、自家発電にも利用される。新鮮な空気も絶え間なくそこから吸入されている。
 不思議なことは他にもある。
 畳に立つと足の裏がほのかに温かい。擦り切れた畳の内部には最新型の床暖房が仕込んであるのだ。
 時代物のテレビから『シャボン玉ホリデー』が流れている。古いテレビだから昔の番組が映るというのはメチャクチャな理論だ。これも実は外観だけで、中身は最新テクノロジーを駆使したサーバーテレビなのだ。
 でも、黒電話は本物だ。ここにはやっかいな人間関係もあまりない。シンプル・イズ・ベストなのである。
 そして、昔ながらの木のドアを引くと、そこは便所......いや、これは最新鋭のトイレットなのだ。一見、ただの水洗トイレに見えるが、流された排泄物は攪拌(かくはん)、濾過などの工程を経て地上の畑の肥料にされる。余分が出ると、熱処理され、固形燃料になる。部屋の隅で赤々と火鉢を染めていたのがそれなのだ。
 もちろん水道は引いていない。雨水を濾過し、溜めている。しかもこれは地下の強み、重力を最大限に利用するから省エネである。
 地下に住む利点はまだある。地震、竜巻、雨、嵐......大自然の猛威にとても強い。そして余計な紫外線を浴びずにすむから、お肌はいつまでも若々しい。一見ただの農地にしか見えないから税金だって......いえ、ちゃんと払います。はい。

 時々思う。ひょっとして、地上に家を建てるのは地球人だけじゃないのだろうか。地下に住むのが宇宙の常識で、だから月や火星に行って、なにもいなかったなんて言っている。
 実は地下には、想像を絶するきらびやかな大都市が広がっているかもしれないのに。

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