4月にメキシコで発生した新型インフルエンザはヨーロッパへも広がり、フランスも最近話題になっています。現在、約6千人が感染し、死亡者も10数人でています。今回は、フランスの普通の市民は、新型インフルエンザをどのように受け止めて、どのように対応しているのか、について皆さんにご紹介したいと思いました。
![]() 大学と学校などで壁に貼られているポスター。「使ったティッシュは必ずゴミ箱に捨ててください」という、日本人にとっては当たり前の指示......。 ![]() これも共同施設に展示されているポスター。手の洗い方までも細かく説明してあります。「手の洗い方を知らない人がいるのだ」と、関心していた人もいました。 ![]() 学校などに置いてある消毒剤の入ったジェル。手を洗うより、ジェルのみで対応している人が多いらしいです。 |
9月は、長い夏休みの終わりで「学校復帰」であったはずでしたが、今年はインフルエンザのせいで、いくつかの学校が閉鎖してしまいました。ルールとしては、ある学校の中で、最低3人が感染した場合、最低6日間閉鎖できます。現在は約10校が閉鎖しているようです。そのため、色々な社会問題が発生しています。まず、授業はどうするのか、ということで、政府が自宅学習、およびインターネット学習を奨励しています。これは実際、あまり上手くいっていないと聞いています。子供たちは「先生がいないと、勉強しない」と言われていて、子供にとっては、閉鎖期間が単なる夏休みの延長になってしまうことが多いようです。
もう一つは、学校の閉鎖で家にいる子供の面倒を見るのは、働いている親にとっては、かなり大変な問題になります。なぜか、フランスの世帯はほとんどが共稼ぎになっているからです。困っている親を助けるために隣人同士の連帯サイトまでが登場しました。お互いの子供の世話をし、アパート内に感染者が出たら、誰が買い物などして助けるのか......などの日常問題でお互いを助け合うフランス人の姿が面白いと思います。
私の周りにいるフランス人にとっては「学校まで閉めるのはやり過ぎだ」と反対する人が多いです。隣のイギリスを見てみると、学校は絶対閉鎖しない方針のようです。イギリスでは、「病気は個人の問題」で、感染すれば、家で治せばよい、学校は閉めるべきではない、という個人主義的な立場があります。それに対して、共同体を重視するフランスでは、個人より学校に責任が感じられ、パンデミックになる前に閉鎖する設置を取っています。こういった政府の施策に対して、「干渉だ」と反発しているフランス人が多いです。とはいえ、もしかしたら、政府が何もしていなかったら、逆に「何もしてくれない、無関心だ」と批判されることも確かです。これもフランス人の国民性です......。
フランスのテレビやラジオも、予防キャンペーンを毎日行っています。「くしゃみやせきをする時は口を手やティッシュで覆い、使ったティッシュはすぐに捨てて、ひんぱんに手を洗おう」という内容です。私にとって、こういう簡単なことは当たり前で、なぜそんなにアピールする必要があるのか、と思わざるを得ません。でも、「衛生」に対して、日本人ほど敏感でないフランス人にとっては、当たり前ではないこともわかりました。例えば、子供の学校でも、「しょっちゅう手を洗うのは珍しい」と思うほどの子がまだいるらしいです。手を洗うよりも、消毒剤の入ったジェルを手にフッと振りかけるほうが早いので、ジェルがもっとも頻繁に使われているようです。
もう一つは、フランス人は、授業中であろうと地下鉄の中であろうと、所かまわず鼻をかむ習慣があります。彼らは、鼻水をすすることが汚い、と思っているからです。でもティッシュをすぐ捨てるよりも、使用後ポケットに入れてしまい、何度も使う人もいます......。したがって、政府が「ティッシュを使用後捨ててください」という指示を出す必要があるのでは......と思います。
企業に対しては、政府が社員用のマスクの購入をすすめ、会議、出張を少なくして、社員の在宅勤務を奨励しています。でも、周りの会社に聞いてみたら、こういった措置を積極的に実施している会社はとても少ないようです。マスクと消毒剤のジェルの購入も、不景気の中で一つの「大きな経費になる」と反対する社長も多いようです。何よりも、「インフルエンザと戦うよりも、経済回復に力をいれたほうがよい」と思う人がほとんどです。
インフルエンザに対するフランス人の反応の中では、日本と随分異なる側面は二つあると思います。一つは、フランスでは予防方法としては、絶対マスクを使わない、ということですね。いくら混んでいるところでも、いくらくしゃみしている人が周りにいても、マスクは絶対避けています。実際感染したことがわかった場所......例えば閉鎖した学校、病院......の中でのみ、マスクが義務づけられているから、使っています。とにかく、強制的でなければ、絶対使わない、ということですね。
![]() マスクを被った人は見当たらなかったために、子供に試してもらいました。彼らにとっても「初体験」で、遊びとして大変盛り上がりました。 ![]() 「何だ、これ......」のような顔でお互いを見ている子供たち。マスクの姿がおかしくてならなかったようです。 ![]() 友達Gillさんもマスクを被ってみました。「これでシャンペンを飲むのは難しいね」と笑っていました。 |
メディアがテレビとラジオでも「マスクを使ってください」と推薦していますが、皆が無視しています。これはなぜでしょうか。日本では、相手に迷惑をかけないために、マスクを被るのが普通だと思います。フランスではそれと逆に、「相手に感染されないように被る」というイメージがあります。言い換えれば、相手は「潜在的な敵」になってしまい、それに対して「自分を守りたい」姿になってしまうのです。これは、知らない人に対してもフレンドリーに振る舞いたい社交的なフランス人にとって、耐えられないかもしれません。「マスクをかけた人が会社にいれば、雰囲気が悪くなる」という人が多いです。
もう一つは、フランス人はかなりおしゃれ(うぬぼれた?)な民族で、自分のイメージを大変気にしている人が多いです。知らない人に対しても「きれいな顔を見せたい」側面がとても強いと思います。もちろん、いくらおしゃれしても、美しい顔をマスクで覆ってしまえば、その魅力が消えてしまうでしょう。「病気になっても、いつまでも魅力的でありたい」と思う人もフランスでは多いのではないか、と思います。
私は、今回のカルネのために、マスクを被っている人の写真を取ろうと思いましたが、本当に誰一人も見当たりませんでした。従って、むりやりに近所の子供と友達に被させて、写真を取ったのです。全員にとって「初体験」で、「不思議で不気味な気持ちだ」、と言っていました。子供たちは大笑いして、「顔が変で、お化けのように見える」とお互いをからかってもいました。友人のジルさんは、「こんな格好では絶対に家を出たたくない、夫の前でさえでも恥ずかしい」と言っていました。「マスクを被ったら大好きなシャンペンも飲めなくなる」とも、半分冗談悩んでいました。
もう一つは、フランス人は、いくらインフルエンザになっても、前回のカルネでご紹介しましたフレンチキスの習慣、「ビース」を絶対止められません。政府は頬へのキスや握手を避けて、話すときも少し距離を置いたほうがいい、と一生懸命に推薦していますが、これも大体無視されている状態です。私に周りでは、誰でも平気で「チュッチュ」の習慣を続けています。キスをしたがらない人もいますが、皆に白い目で見られています。手をちゃんと洗って、政府の要望キャンペーンの内容を忠実に守る人も、一番問題になるキスをそのまま続けていることは、矛盾ですね。でも、こういった、どうしてもキスをしたがるフランス人の姿は何となく可愛らしく、魅力的に感じられます。「病気は病気ですが、人間関係も大事だ」という発想ですね。
要するに、フランス人はインフルエンザに対しては、「マスクはノー、キスはイエス」という態度で対応しているのです。パンデミックになったら、変わるかもしれません(厚生省の専門家は10月の末にピークを予想しています)。その時は、フレンチキスができなくなり、きれいな顔をマスクで覆わなければならないことは、フランス人にとって、病気よりも辛いことになるかもしれません。