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「ベッドを中心とする生活」のご報告の続きです。
家族全員がベッドの上で、ボードゲームなどをする習慣も増えているようです。ベッドが大きくなってきているにつれ、大人と子供も一緒に楽しめることにつれ、例えば両親のベッドルームも、家族全員で使われる傾向が出てきています。
そこで、人類とベッドの関係を時代を追ってたどる興味深い本もあります。「人類の水平方向の歴史」(アルバム・ミシェル編、人類学者ブライアン・フェイガン、考古学者ナディア・デュラニ共著)であり、著者によれば、「ベッドはマルチタスクのプラットフォームになりました。こうしてベッドは、かつての用途に戻りつつあるのです。
つまりシェイクスピアと同時代の人々にとって、ベッドは社交の場であり、ルイ14世は寝室からフランスを統治していました」、と書いています。確かに、フランスの王族に関する歴史的な映画やドラマを見ると、君主(王や女王)が臣下をベッドに迎えるということがよくあります。今の政治家では考えられないことですね。寝室は「プライベートな空間である」という考えは、結構新しいもので、昔はそうではなかったようです。
この習慣は貴族に限ったことではありませんでした。前近代には、家族全員が寝るメインルームにベッドが1つしかなかったようです。歴史学者として有名なミシェル・ペロ氏は、「実際には、2人用のベッドは最近の発明である」と述べています。18世紀までは、ベッドは家族全員で共有していました。18世紀末、特に19世紀になって「愛に基づく夫婦」が誕生してから初めて、「夫婦の寝床」という習慣が生まれたのです。つまり、ベッドはある意味では元々の様子に戻っているようですね。
日本の場合は、ベッドの歴史には「布団」があり、また違ったライフスタイルが生まれたでしょう。それについて、本や情報があればぜひ読んでみたいですね。日本の社会では、布団と西洋風のベッドが共存していることもあります。
以前のカルネでは「スローライフ」についてご報告しましたが、コロナ禍の影響で、ベッドがますます繭(まゆ)、安らぎの場となっています。現代社会の問題や猛烈なペースから解放され、自分の時間を持ち、親密で快適な場所である「ベッド」で休養と充電もできます。
しかし、ベッドがいくら素晴らしくて快適であっても、「ひきこもり」になってしまってはいけません。心理学者がそれを「ベッドアディクト」や「クリノフィル症候群(横になっているのが好きなこと)」と呼んでいます。「部屋やベッドから出たくない」というヤングアダルトやティーンエイジャーが増えているようで、「治療が困難な場合もあります」と。ベッドは、外の世界から逃げるための場所ではなく、それとちゃんと向き合うための「休息や充電の場」として大切にしてほしいですね。
どうぞ皆さん素敵なベッドを選び、快適な睡眠を迎えてください。